白樂天「重ねて渭上の舊居に到る(かさねてゐじゃうのきうきょにいたる;重到渭上舊居)」(抄) (田中克己)

浮生は過客に同じく、
前後たがひに來去す。
白日 珠を弄するがごとく、
出沒 光とどまらず。
人物 日に改變す、
目を擧げて所遇を悲む。
迴念してわが身を念へば、
いづくんぞ衰暮せざるを得ん。


ふせいはくゎかくにおなじく、
ぜんごたがひにらいきょす。
はくじつ たまをろうするがごとく、
しゅつぼつ ひかりとどまらず。
じんぶつ ひにかいへんす、
めをあげてしょぐうをかなしむ。
くゎいねんしてわがみをおもへば、
いづくんぞすゐぼせざるをえん。


浮生同過客
前後遞來去
白日如弄珠
出沒光不住
人物日改變
擧目悲所遇
迴念念我身
安得不衰暮


人生は旅人と同じく、
前になり後になり往来さだめがない。
月日は曲(きょく)どりの玉のように、
上下してとまっていない。
人物も物も毎日かわっているので、
目をあげて見ると悲しまざるを得ない。
さてわが身のことをふりかえれば、
これもどうして衰えないでおれよう。