屈原「九章 渉江(せふかう)」(『楚辭』より)(抄) (藤野岩友)

吾が生の樂しみ無きを哀しみ、
幽獨にして山中に處る。
吾は心を變じて以て俗に從ふ能はず、
固より將に愁苦して終に窮まらんとす。


わがせいのたのしみなきをかなしみ、
いうどくにしてさんちゅうにをる。
われはこころをへんじてもってぞくにしたがふあたはず。
もとよりまさにしうくしてつひにきはまらんとす。


哀吾生之無樂兮
幽獨處乎山中
不能變心以從俗兮
固將愁苦而終窮


おのれの楽しみもない生活を悲しみつつ、わたくしは独り山中に身を置いている。しかし、わたくしは心を変じて世俗に従うことはできない。もとよりわが身は愁い苦しみ、終には窮死するに至るであろう。