ムージル『特性のない男』 (加藤二郎 訳)

人が感じること、そして行なうことのすべては、ともかく「生を目指して」起きるのだ。この方向から少しでも外れた動きをするのは、むずかしいか、あるいは恐ろしい。これは、ただ歩く動作の場合とまったく同じである。つまり、重心を上げ、それを前に押し出して、それを下ろす。しかしこの場合些細な変化が起きると、つまり、この「未来へ下ろす」ということにいささかでも怖けづいたり、あるいはただそれを訝ったりすると、もう真っ直ぐに立っていられなくなる! こういうことは考え込んではいけないことなのだ。