李賀「陳商に贈る(ちんしゃうにおくる;贈陳商)」(抄) (齋藤晌)

長安に男兒有り、
二十 心 已に朽ちたり。
楞伽 案前に堆く、
楚辭 肘後に繫く。
人生 窮拙有り。
日暮 聊か酒を飮む。
祗今 道已に塞がる。
何ぞ必ずしも白首を須たん。


ちゃうあんにだんじあり、
にじふ こころ すでにくちたり。
れうが あんぜんにうづたかく、
そじ ちうごにかく。
じんせい きゅうせつあり。
にちぼ いささかさけをのむ。
ただいま みちすでにふさがる。
なんぞかならずしもはくしゅをまたん。


長安有男兒
二十心已朽
楞伽堆案前
楚辭繫肘後
人生有窮拙
日暮聊飮酒
祗今道已塞
何必須白首


長安に一人の男がいるが、まだ二十なのに、心はもう朽ち果てている。机の前には楞伽経(りょうがきょう)がうずたかく積みかさねてあり、肘のあとには楚辞をひっかけている。人生には行きづまりということがある。日が暮れると、まずまず酒を飲むのだ。今やわが道はすでに塞がってしまった。白髪頭になる日を待つまでもない。