ジョーゼフ・ヘラー『キャッチ=22』(飛田茂雄 訳)

なんといやらしい世の中だろう。彼はこの同じ晩に、繁栄を誇る自分の祖国においてさえ、どれだけの人々が窮乏に苦しんでいるだろう、どれだけの人々が掘っ立て小屋に住んでいるだろう、どれだけの夫が酔っぱらい、どれだけの妻がぶん殴られ、どれだけの子供たちがおどかされ、虐待され、捨てられているだろう、と考えた。どれだけの家族が、とても買う余裕のない食べものを飢え求めていることだろう。どれだけの心臓が破られていることだろう。この同じ晩にどれだけの人々が自殺を遂げ、どれだけの人々が発狂していることだろう。どれだけの悪徳商人や家主どもが勝利をおさめているだろう。どれだけの勝利者が実は敗者であり、成功者が失敗者であり、金持ちが貧乏人なのであろうか。どれだけの知ったかぶり屋がまぬけ野郎であろうか。どれだけの幸福な結末が不幸な結末なのだろうか。どれだけの正直者が嘘つきであり、勇者が臆病者であり、忠誠な人間が反逆者なのであろうか。どれだけの聖人ぶった人々が堕落しており、信用のおける地位にあるどれだけの人々が、わずかばかりの現ナマのために彼らの魂を悪党どもに売ったであろうか。どれだけのまっすぐで狭い道が曲りくねった道なのだろうか。どれだけの最良の家庭が最悪の家庭であり、どれだけの善人が悪人なのであろうか。これらすべてを足したり引いたりすると残るのは子供たちだけ、それにまあアルバート・アインシュタインと、どこかの老ヴァイオリニストか彫刻家だけということになるだろう。