杜牧「杜秋娘の詩并に序(としうぢゃうのしならびにじょ;杜秋娘詩并序)」(抄) (市野澤寅雄)

主張既に測り難く
翻覆亦其宜し
地盡きて何物かある
天外復何んか之かん
指は何すれぞ捉へ
足は何すれぞ馳する
耳は何すれぞ聽き
目は何すれぞ窺ふ
己の身自ら曉らざるに
此の外何をか思惟せん


しゅちゃうすでにはかりがたく
ほんぷくまたそれよし
ちつきてなにものかある
てんぐゎいまたいづくんかゆかん
ゆびはなんすれぞとらへ
あしはなんすれぞはする
みみはなんすれぞきき
めはなんすれぞうかがふ
おのれのみみづからさとらざるに
このほかなにをかしゐせん


主張既難測
翻覆亦其宜
地盡有何物
天外復何之
指何爲而捉
足何爲而馳
耳何爲而聽
目何爲而窺
己身不自曉
此外何思惟


運命を誰がどう主宰しているかまるで分からない。何もかもかわり易いのもそれでよい。地のきわまで行ったところで、そこに何がある。天のそとまで出たところで、どこに行ける。指は何のために物をつかむ。足は何のために馳ける。耳は何のためにきく。目は何のために見る。自分のからだについたものが自分に分かっていない。身外のことなど何が考えられよう。