中井久夫『分裂病と人類』

分裂病者の幼少期は、多くが「よい子」であるといわれるが、この手のかからず、めだたず、反抗しない、‶すなお″な「よい子」とは違う意味で、うつ病者の幼少期も、多くは「よい子」である。ただし、かいがいしい、よく気のつく、けなげな「よい子」であるようだ。土居健郎の「甘え」の理論に照らせば、どちらも「甘えない」子であるが、分裂病者の幼少期が「甘え」を知らないか「甘え」を恐怖するのに対して、うつ病者の幼少期は「甘え」をよくないこととして断念している印象がある。いや、親をいたわり、「甘えさせる」子であることすら多い。そして周知のように、日本の親は――東北地方文化については保留が必要かもしれないが――結構、子に「甘える」のである。