2014-06-12から1日間の記事一覧

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

――うん、おれはねどんな女も信用せんよ。 ――どんな女も? ――どんな女もだ。女はそむく、真面目にそむくんだ、わかるだろおれの言うこと。

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

ジュゼッペが言うのに、自由人は死を考えない、知恵は死の省察にはなく、かえって生の省察にあるのだそうな。ジュゼッペは他人が考えてくれたことをくり返しているのだ。人間は互いに真理を取ったり取られたりできるものと思いこんで、この盗み行為から……自…

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

彼は聞こうとせず背を向けているがそれできっといいのだ。人間は背を向けて生きることも習ったのだ。生きることを習ったのだ。

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

けれども夢を実現させるとは、現実によってその夢を打ち砕くことにすぎない。そして終りなぞないということ、たぶんすべてがあれほどにむなしいばかげた仕方で終る場所以外には、行き着いて憩う終りとも目的ともなるようなどんな場所もないということを、発…

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

口を糊するためといって死刑囚になるわけにはいかない。奇蹟中の奇蹟ともいうべき偶然で物に存在理由があるとしても――一見したところそんなことは自明とは見えぬ、自明どころではない――また人に存在理由があるとしても、とにかく、毎日毎日を死に至るまでの…

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

彼女はうつ伏せに寝て顔を向ける。 ――ね、私やさしいでしょ。やさしいと言って。 ――とても。そんなふうにしていると、きみはとてもやさしい女の子。おれの好きなすてきな子だ。 ――あなたの望みどおりになんでもするわ。 ――おれの望みどおりになんでもするわ…