2015-09-28から1日間の記事一覧

田村隆一「四千の日と夜」

一篇の詩が生れるためには、 われわれは殺さなければならない 多くのものを殺さなければならない 多くの愛するものを射殺し、暗殺し、毒殺するのだ 見よ、 四千の日と夜の空から 一羽の小鳥のふるえる舌がほしいばかりに、 四千の夜の沈黙と四千の日の逆光線…

村上春樹『辺境・近境』

三十年以上も前の話――そう、ひとつだけ確実に僕に言えることがある。人は年をとれば、それだけどんどん孤独になっていく。みんなそうだ。でもあるいはそれは間違ったことではないのかもしれない。というのは、ある意味では僕らの人生というのは孤独に慣れる…

村上春樹『辺境・近境』

地震があっても革命があっても戦争があっても、何世紀たっても、阪神ファンの姿だけはおそらく変わらないのではあるまいか。

村上春樹『辺境・近境』

世の中には故郷にたえず引き戻される人もいるし、逆にそこにはもう戻ることができないと感じ続ける人もいる。両者を隔てるのは、多くの場合一種の運命の力であって、それは故郷に対する想いの軽重とはまた少し違うものだ。

村上春樹『辺境・近境』

でも僕はプリンストン大学の図書室で、ノモンハン戦争に関する書籍を何冊も読んでいるうちに、そしてその戦争の実態が頭の中に比較的鮮明に浮かび上がってくるにつれて、自分が強くこの戦争に惹かれる意味のようなものが、ぼんやりとではあるけれど把握でき…

村上春樹『辺境・近境』

故郷の村から都会に出てきたインディオの青年の話を聞いたことがある。その青年は、故郷の村に暮らしているときには一度も飢えたことがなかった。貧乏な村ではあったけれど、飢えというものを彼は知らなかった。何故ならその村でもし彼がお腹を減らしている…

村上春樹『辺境・近境』

同じことが何度も何度も単調に繰り返され、時間だけがゆっくりと流れていく。でも協会の庭に腰をおろして、子供たちと一緒にそういう光景をじっと見ていても、僕としてはべつに退屈もしないし飽きもしなかった。というか、そのうちにある種の懐かしささえ感…

村上春樹『辺境・近境』

実際の人生はハリウッド映画とは違う。実際の人生というのはうんざりするようなアンチ・クライマックスの連続なのだ。

村上春樹『辺境・近境』

でも、自己弁明するわけではないのだけれど、僕の人生というのは――何も僕の人生だけに限ったことではないと思うけれど――果てしのない偶然性の山積によって生み出され形成されたものなのだ。人生のあるポイントを過ぎれば、我々はある程度その山積のシステム…