2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧
「宗教は」とオレステの父が言った、「教会へ行くことだけではない。宗教はむずかしいものです。子供を育てることも、家庭を維持することも、みなといっしょに生活してゆくことも……宗教のうちです」 するとジュスティーナがピエレットに「じゃあ、あなたの意…
人は隠れてたくさんのことをする、しかしそれは罪ではない、とピエレットが言った。習慣と節度の問題だ。自分が何をしているかわからないことこそ、罪だ。
「ときどきは、ぼくらも外出しなければ」とぼくは言った、「ぼくは月夜の丘が見たい。昨日はもう三日月が出ていた」 「ぼくたちは月夜の海で泳いだんだ」とオレステが言った、「冷たいミルクを飲むみたいだった」 ぼくにはその話を一度もしなかった。急に、…
「しかし」とぼくは言った、「町だって、いつの時代にもあったんだ。汚れていたかもしれない、わら屋根だったかもしれない。三軒の掘立小屋だったり、洞穴だったかもしれない。いずれにせよ、人間とは町だ」
レジーナの店には二度と行かなかった、油の話やプールの戯れの黙契が嫌だったからだ。結局、ひとりでいる方がよかった。それに女の子に幻滅をいだいたのも、それが初めてではなかった。もちろんピエレットには、その恋の冒険を自慢するどころか、朝の水と太…
ひとの一生は、畢竟、太陽の下のひとつの戯れにすぎないのではないか、とあのころの朝ごとにぼくは思った。
「しかしその無垢を、それを、ぼくは捜しているんだ」頑なに口ごもりながらポーリが言った、「それを知れば知るほど、自分が矮小であると気づく、人間であることを思い知らされる。いったい、きみは人間という存在が弱者であると認めるのか、それとも認めな…
「決心すればするほど、落ちこんで、しまいに底に着くんだ。一切を失ったとき、ぼくら自身が見出される」 ピエレットは笑った。「酔いどれは酔いどれさ」と、彼は言った。「麻薬か、酒かは、もはや選ぶところではない。昔、何千年も昔に、最初の杯をあげたと…
先帝臣(せんていしん)が謹愼(きんしん)なるを知る。故に崩(ほう)ずるに臨みて臣(しん)に寄するに大事(だいじ)を以てせり。命を受けて以來、夙夜(しゅくや)憂慮し、付託效(かう)あらず、以て先帝の明を傷(やぶ)らんことを恐る。故に五月濾(ろ)を渡り、深く不…
昔、大納言の娘いとうつくしうてもち給うたりけるを、帝に奉らむとてかしづき給ひけるを、殿に近う仕うまつりける内舎人(うどねり)にてありける人、いかでか見けむ、この娘を見てけり。顔かたちのいとうつくしげなるを見て、よろづの事おぼえず、心にかかり…
「愚かな女さ」ぼくは言った。 「いつも愚かだよ、恋をしている女は」と、ピエレットが言った。 男女の影を操る歌の言葉に、ぼくは耳を傾けた。《生きて生きて――取るのよ取るのよ――心すなおに》とそれは言っていた。たとえ不満で、煩わしくても、その歌の調…
「ぼくは自分を子供と思いこんでいる老人だった。いまではわかっている。ぼくはひとりの男、悪癖にまみれた男だ。弱い男、それでもひとりの男だ。あの叫び声がぼくの正体をあばいた。ぼくは自分に幻影を許せない」
「ひとはみな、自分で唱わなければならない」と、ピエレットが言った。「自分で、自分だけでしなければ、どうにもならないことがあるんだ」 するとポーリは笑いながら言った、「踊っている人間はそれで手がいっぱいだから、大目に見てやらなければ」 「踊っ…
しかしポーリは落着いていた。「ぼくはコントラストが、つまり対照が、好きです。ぼくたちが、肉体よりも強くかつ高い存在であると自分を感じるのは、対照のなかでだけです。対照がなければ、人生は陳腐なものになってしまう。ぼくは自分に幻想を求めている…
暗闇のなかでふたりは服を着た。そしてその暗闇のなかで、不意に、あのモデルは誰なのか、とジーニアはたずねた。 「ぼくが帰ってきたことを聞きつけて、やってきた、かわいそうな女だよ」 「きれいなひとなの?」とジーニアが言った。 「見なかったのかい?…
「ちょっとひと眠りしたほうがいいか? よくわかるよ!…… 手始めにひと眠り!…… それこそ賢明ってもんだ!…… おれが一人でべらべらしゃべってるな…… おまえに必要なのは、十時間ぐっすり寝ることだ…… よしよし!……親愛な甥君よ!…… こんなおしゃべりは、もう…
「馬鹿なことをするのに席が満員になるってことはない!…… おまえは今、動転している…… まあ、そいつもわからなくはないが…… おまえはものすごく泣いた…… ずいぶん喉がかわいてるはずだ!…… ちがうか?……」
「おまえは《歩兵》に行きたいんじゃないか?…… 《戦闘の女王》連隊に?…… ちがうか?…… おれにははっきりわかる!……おまえはなんにも担ぎたくないんだ!…… 三十二キロ?…… 担ぎたいか、坊主! おまえは自分が人に担いでもらいたいんだろ! 隠れちゃえよ、こ…
わたしには、なんだっておんなじだった…… 「知らないよ、叔父さん!……」 「おまえはなんにも知らないんだ!…… 永久になんにも知らないんだ!……」 「ぼくは叔父さんが大好きだよ、わかってるね!…… でも、ぼくはもうここにいられないんだ!…… いられないんだ…
彼はおおいに不満だった…… わたしは彼に全部告白しようと思った!…… そうやって一気に…… なんでもかまわず!…… どんなふうにだっていいから! 「ぼくはなにもできないんだよ、叔父さん…… ぼくはまじめないい子じゃないんだ…… 分別がないんだ……」 「いや、お…
「そいつは一時の気まぐれだ、坊や…… 小便がしたくなったようなもんだ!…… それとおんなじで、すぐ過ぎてっちまう!……」
「おまえはいいセールスマンにはなれないよ…… ああ、とてもだめだ! え? うまくその! うまくその言えないけれど!…… おまえは職探しに行くのが好きじゃないんだろ?…… そうだ! そいつがこわいんだろ?…… よろしい!」
「ああ! そうだとも! おまえは職探しをするのを苦にしているんだ…… 両親のところでずっと見てきた…… おまえはなかなかやりにくい、そいつに向いてないんだ…… もう、おまえは強制されることはないから…… だって、おまえがこわがってるのはそれなんだから!……
「だが、あの男が断崖の淵を歩いたのはこれが最初じゃない!…… ああ! あいつは危険が大好きな男だった!…… いつも破局と隣合わせだった!…… 第一、競馬をやる人間はそうじゃないか? ちがうか?…… 連中は自分で顔をぶち割りたいんだ!…… 自分でも変れない!…
「ああ! 坊や! おれが言うのは、なにもおまえに急がせるためじゃないぞ!…… いや! とんでもない!…… 奔走をはじめるため、ゆっくり時間をかけろ! まず最初に自分の置かれている位置を知ることだ!…… なんでもかまわず飛びつくんじゃないぞ!…… そしたら…
「第一、そう、これは本当のことだ…… 金がたっぷりあればあるほど、欲しくなるんだ…… 飽くことを知らないってわけだ! これで充分なんてことはけっしてない!…… 裕福であればあるほど汚い!…… 会社ってのは恐ろしいもんだ!…… おれは自分でも小さな商売をや…
「一度だってあるものを見たら…… 永久にそいつを覚えてなくちゃいけないんだ!…… 無理に知性を働かせるんじゃない! 理性がわれわれのあらゆる口を塞いでしまうんだ…… まず、第一に、本能に頼りたまえ…… 本能がよく見るときには、きみの勝ちだ!…… 本能は絶…
婆さんがあんまり彼らを質問ぜめにするもんだから、とうとう全員が拍子をとって、合唱しはじめた、 「こいつは罪じゃない!…… ない! ない! ない!」 「こいつは罪じゃない!…… ない! ない! ない!」
畜生! 畜生! わたしにはわかっていた…… 年齢ってのは、なんて嫌なもんだ…… 子供たちってのも歳月とおんなじで、二度と会えやしない。
もうみんなおしまい、い、い、だ!……