2008-10-01から1ヶ月間の記事一覧

金子兜太

朝はじまる海へ突込む鷗の死

『孟子』(小林勝人 訳注)

曾子(そうし)曰く、戒めよ戒めよ、爾(なんじ)に出(い)ずる者は、爾に反(かえ)る者なりと、夫(か)の民(たみ)は今而後(乃)(すなわ)ち之に反(報)(むく)ゆるを得たるなり、君尤(とが)むること無(なか)れ。 曾子曰、戒之戒之、出乎爾者反乎爾者也、夫民今而後得反…

石田波郷

細雪妻に言葉を待たれをり

マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』(高橋勇夫 訳)

私たちが言葉が意味するものを伝えたいと思うとき、相手側の知的な努力によって埋めるしかないギャップが生じてしまうものなのだ。私たちのメッセージは、言葉で伝えることのできないものを、あとに残す。そしてそれがきちんと伝わるかどうかは、受け手が、…

三橋鷹女

夕日が来て枯向日葵に火を放つ (ゆうひがきてかれひまわりにひをはなつ)

オリバー・サックス『妻を帽子とまちがえた男』(高見幸郎、金沢泰子 訳)

私は呆然とした顔つきになっていたにちがいない。だが彼は、立派な答をした気になっていた。彼の顔には、微笑がうかんでいた。テストは終了したと思ったのだろう、帽子をさがしはじめていた。彼は手をのばし、彼の妻の頭をつかまえ、持ちあげてかぶろうとし…

太宰治「待つ」(全)

省線のその小さい駅に、私は毎日、人をお迎えにまいります。誰とも、わからぬ人を迎えに。 市場で買い物をして、その帰りには、かならず駅に立ち寄って駅の冷いベンチに腰をおろし、買い物籠(かご)を膝に乗せ、ぼんやり改札口を見ているのです。上り下りの電…

大西巨人『神聖喜劇』

私は、ただ見ていたのである。

古井由吉『杳子』

「あなたは健康な人だから、健康な暮しの凄さが、ほんとうにはわからないのよ」

水原秋桜子

冬菊のまとふはおのがひかりのみ

ヘーゲル『法の哲学』(藤野渉、赤沢正敏 訳)

理性的であるものこそ現実的であり、 現実的であるものこそ理性的である。 ※太字は出典では傍点

ヘーゲル『歴史哲学講義』(長谷川宏 訳)

世界史は東から西へとむかいます。ヨーロッパは文句なく世界史のおわりであり、アジアははじまりなのですから。東それ自体はまったく相対的なものですが、世界史には絶対の東が存在する。というのも、地球は球形だが、歴史はそのまわりを円をえがいて回るわ…

柄谷行人『探究I』

いうまでもないが、対話は、他者との対話でなければならない。すなわち、自分と異質な他者、異なる言語ゲームに属する他者との対話だけが、対話とよばれるべきである。一つのコードの中でなされる対話は、自己対話(モノローグ)と同じであり、弁証法もこの…

太宰治 「みみずく通信」

「勉強し給え。おわかれに当って言いたいのは、それだけだ。諸君、勉強し給え、だ。」

ヘルマン・ブロッホ『ウェルギリウスの死』(川村二郎 訳)

「現実とは愛なのだ」

カート・ヴォネガット・ジュニア『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』(浅倉久志 訳)

「その問題とは、つまりこういうことですよ――いかにして役立たずの人間を愛するか? いずれそのうちに、ほとんどすべての男女が、品物や食糧やサービスやもっと多くの機械の生産者としても、また、経済学や工学や医学の分野の実用的なアイデア源としても、価…

与謝蕪村

身にしむやなき妻のくしを閨(ねや)に踏む

デール・カーネギー『人を動かす』(山口博 訳)

あなたの話し相手は、あなたのことに対して持つ興味の百倍もの興味を、自分自身のことに対して持っているのである。中国で百万人の餓死する大飢饉が起っても、当人にとっては、自分の歯痛のほうがはるかに重大な事件なのだ。首に出来たおできのほうが、アフ…

種田山頭火

生きてゐることがうれしい水をくむ

蓮實重彦『小説から遠く離れて』

小説とは、いわば文学的な私生児なのだ。誰かに捨てられたから孤児たる宿命を引きうけるのではなく、「完璧な捨子」として無根拠に出現したものに、人は小説という名称を与えたということなのだ。ここでは文芸ジャンルとしての小説論を展開するつもりはない…

加藤楸邨

死ねば野分生きてゐしかば争へり

モーパッサン『女の一生』(新庄嘉章 訳)

「世の中って、ねえ、人が思うほどいいものでも悪いものでもありませんね」

山口青邨

こほろぎのこの一徹の貌(かお)を見よ

正岡子規『病牀六尺』

病牀六尺、これが我世界である。しかもこの六尺の病床が余には広過ぎるのである。

鷹羽狩行

母の日のてのひらの味塩むすび

高橋和巳「孤立無援の思想」

「内に省みて恥ずるところなければ、百万人といえども我ゆかん」という有名な言葉が孟子にあるけれども、百万人が前に向って歩きはじめているときにも、なおたった一人の者が顔を覆って泣くという状態もまた起りうる。最大多数の最大幸福を意志する政治は当…

荻原井泉水

咲きいづるや桜さくらと咲きつらなり

須賀敦子『遠い朝の本たち』

「ジャックと私は、夜おそくまでサティの音楽について語りあった」 坂を降りながら、ジャンが盗み読みしたクレールの手帳の一節を、私は自分のなかで繰り返していた。あの本を友人たちと読んだころ、サティという音楽家がいたことも、もちろん、彼の作品につ…

正岡子規

夏草やベースボールの人遠し

太宰治「男女同権」

そもそも民主主義とは、――いや、これはどうも、あまりに唐突で、自分で言い出して自分でおどろいている有様で苦笑の他(ほか)はございませんが、実は私は、まったく無学の者で、何も知らんのです。しかし、民主とは、民の主(あるじ)と書き、そのつまり主義、…