2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

夏目漱石『吾輩は猫である』

人間の定義を云うと外に何にもない。只入らざる事を捏造(でつぞう)して自ら苦しんで居る者だと云えば、夫(それ)で充分だ。

アーサー・C・クラーク『幼年期の終り』(福島正実 訳)

生涯を賭けた仕事が一瞬のうちに潰え去っていくのを見ながらも、彼は悲しみは感じなかった。彼は人類を星々へ到達させるために汗を流した。そして、まさにその成功のまぎわに、星が――冷やかな、超然とした星が――逆に彼のほうへ降りてきたのだ。これこそ、歴…

北原白秋『童心』

人間、人間という此の言葉くらい甘えものの人間に取って融通のきく簡易な自己弁護の武器はあるまい。

明恵『栂尾明恵上人遺訓』

人は阿留辺幾夜宇和(あるべきようわ)と云ふ七文字(しちもんじ)を持(たも)つべきなり。僧は僧のあるべき様(よう)、俗は俗のあるべき様なり。 *「あるべき様」は、現今の「〜らしく」に相当する。僧籍にある者も、また俗人も、共に自分のあるがままの姿を大事…

吉川英治『草思堂随筆』

行き詰りは展開の一歩である。

アンダソン「グロテスクな人々についての本」(小島信夫・浜本武雄 訳)

世界がまだ若かったはじめのころ、おびただしい数の思想があったが、真実などというものはまだなかった。ところが人間がいろいろな真実を自分でつくりだし、一つ一つの真実はおびただしい数のあいまいな思想の寄せ集めだった。こうして世界じゅういたるとこ…

井上靖『憂愁平野』

人間何をしてもいいが、余り自分を不幸にしてはいけない。

別役実『街と飛行船』

しあわせは ほんのすぐそばに 息を殺して 待っている。

太宰治『貧の意地』

駄目な男というものは、幸福を受取るに当ってさえ、下手くそを極めるものである。

ジョーゼフ・ヘラー『キャッチ=22』(飛田茂雄 訳)

どちらを向いても目につくのは狂った人間ばかり。それほどの狂気のなかで彼自身のように正気な青年がなし得ることといえば、せいぜい自己のまともなものの見かたを保つことぐらいであった。しかもそうすることは彼にとって緊急の大事であった。なぜなら、彼…

徳冨蘆花『黒潮』

田舎に引籠って、吾(わが)影法師と頷き合うての考(かんがえ)に耽ける者の癖として、兎角偏狭に流れ易い。

島崎藤村『春』

僕は世を破る積りで居て、反って自分の心を破って了った。 *青木(北村透谷がモデル)の言葉。

松平定信『花月草子』

人をみるには、まづ十(とお)にして五つばかんもよき事あるは、いとよき人とみるべし。十にして一つ二つもよき事あるは、よき人なり。十にして皆あしきをば、あしきと心得給へ。

ホメロス『オデュッセイア』(松平千秋 訳)

ムーサよ、わたくしにかの男の物語をして下され、トロイエ(トロイア)の聖なる城を屠(ほふ)った後、ここかしこと流浪の旅に明け暮れた、かの機略縦横なる男の物語を。多くの民の町を見、またその人々の心情をも識(し)った。己が命を守り、僚友たちの帰国を…

ホメロス『イリアス』(松平千秋 訳)

怒りを歌え、女神よ、ペレウスの子アキレウスの――アカイア勢に数知れぬ苦難をもたらし、あまた勇士らの猛き魂を冥府の王(アイデス)に投げ与え、その亡骸は群がる野犬野鳥の啖(くら)うにまかせたかの呪うべき怒りを。かくてゼウスの神慮は遂げられていったが…

高見順『胸より胸に』

何故(なぜ)こんなところにいなくてはならないのだろうと思いながら、私は常にそう思わせられる場所に――人生のそうした場所に私はずっと坐りつづけてきた。こんな筈ではない、こんな所にいる筈ではないと思いながら、いつもきまってそうした場所に、居心地が…

高見順『わが胸の底のここには』

私は父親が欲しかった。父親の、私に話しかける言葉が、私に笑いかける笑いが、私の成長を喜んでくれるその眼が、私の卑屈を直してくれるその愛情が、盗みを働いたりする私への父親の激しい打擲の手が、私は欲しかった!

近松半二他『妹背山婦女庭訓』

子と言う文字に死の声の有るも定(さだま)る宿業。 *子の音読みは「し」である。親にとって子の死以上に悲しい事は世の中に無い、との意。

ガルシア=マルケス「三度目の諦め」(井上義一 訳)

しかし、すでに死を観念して受け入れてしまった彼は、おそらくはその諦め故に死んでいくかもしれない。

ガルシア=マルケス「三度目の諦め」(井上義一 訳)

しばらく前まで、自分が死んだものだと信じきっていたので、彼は幸せだった。死者という、動かしようのない状況に置かれているので、幸せなはずだった。ところが生者というものは、すべてを諦めて、生きたままで地中に埋められるわけにはいかないのだ。それ…

芥川龍之介『侏儒の言葉』

古来いかに大勢の親はこういう言葉を繰り返したであろう。――「わたしは畢竟失敗者だった。しかしこの子だけは成功させなければならぬ」

獅子文六『自由学校』

女の一生を、ワヤにされたという恨み。この恨みは、すべての細君が、大なり小なりに持っている。

芥川龍之介『侏儒の言葉』

結婚は性欲を調節することには有効である。が、恋愛を調節することには有効ではない。

リルケ「若き詩人への手紙」(高安国世 訳)

一つの芸術作品に接するのに、批評的言辞をもってするほど不当なことはありません。それは必ずや、多かれ少なかれ結構な誤解に終るだけのことです。物事はすべてそんなに容易に摑めるものでも言えるものでもありません、ともすれば世人はそのように思い込ま…

森鷗外『藤鞆絵』

アワンチュウルの心持は、若い人には、男と女とを問わず、多少ある。花見に行く。芝居に行く。花を見たり、芸を見たりするばかりではない。人を見る。それよりは人に見て貰う。 *「アワンチュウル」は、アヴァンチュール。

織田作之助『夜の構図』

女の品行というものは、男が思っている以上にみだれているが、同時にまた、男が思っている以上に、清潔だ。

三島由紀夫『虚栄について』

男の虚栄心は、虚栄心がないように見せかけることである。

プルースト『失われた時を求めて』「スワン家のほうへ」(井上究一郎 訳)

あるひとを愛することによってわれわれがはいろうとしている未知の生活にそのひとも協力していると信じることこそ、愛が生まれるために必要なすべてのなかで、愛にとってもっともたいせつなものであり、それ以外はそれほど重くは見られないのである。男たち…

西郷隆盛『南洲翁遺訓』

命もいらず、名もいらず官位も金もいらぬ人は始末に困るものなり。此の始末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり。

山本周五郎『虚空遍歴』

自分で自分を裁くのは高慢だ。