2008-01-01から1年間の記事一覧
こどもの生命をオイディプス・コンプレックスの中に閉じこめ、家庭的諸関係を幼年期における普遍的媒介項とみなすことによって、ひとは、無意識そのものの生産の働きと、じかにこの無意識に働きかける集団のメカニズムとを見失うことを余儀なくされるわけな…
かくして分析は、古典主義時代をつうじて、表象の理論と言語(ランガージュ)、自然の秩序、富と価値の理論とのあいだに実在してきた、整合性というものを示すことができた。十九世紀以後完全に変ったのはこの布置である。つまり、可能なあらゆる秩序の一般的…
監禁は、十七世紀に固有な制度上の産物である。一挙にそれは、中世に実施しえたような投獄制度といかなる共通の次元をももたぬ広大さを獲得した。それは経済上の措置、社会的な安全策という点で新機軸の価値をもっている。ところが非理性の歴史のなかでは、…
しかし、奴隷制はいかに大規模な経営形態をとったとしても、熟練を要する職種では役に立たない。奴隷というものは、強制されたこと以外には何もするはずがないからである。少しでも熟練が必要な職種では、別の形態の労働管理を考えた方が経済的である。とい…
書くとは、終りなきもの、止まざるものだ。作家は、「私は」と言うのを断念する、と言われる。カフカは、自分は「私は」を「彼は」に置きかえ得た時から文学に入ったと、驚きながら、ある恍惚たるよろこびをもって語っている。これは本当だが、この場合の変…
寸法についてであるにせよ、属性についてであるにせよ、それでは縮減にどのような効果があるのだろうか? それは認識過程の転倒にあると思われる。現実の物体を全体的に認識するためには、われわれはつねにまず部分から始める傾向がある。対象がわれわれに向…
わたくしは、これらの覚え書きを、疑いの感情とともに公開する。この作品には、その貧弱さとこの時代の暗鬱さのうちにあって、いくつかの頭脳に光を投げかけることが運命づけられているということ、このことはありえないことではない。しかし、もちろん、あ…
かつてアニミズムが事物に心を吹き込んだとすれば、今は産業社会が心を事物化する。経済機構は、全体的計画化の成立よりも前に、すでに自動的に、人間の行動を決定する価値を商品に付与する。自由交換の終末とともに、商品がその経済的な諸性質を失って、物…
権力を持たない、もしくはあきらかにはじめから権力を失いつつある集団への迫害はあまり見ていて楽しいものではあるまいが、しかしまたそれは単に人間の下劣さのしるしではない。人間は真の権力に服従し、あるいはそれに堪えるが、しかし権力なき富を憎む。…
笑い、特に嘲笑が、何故豊饒儀礼と結びつくか。それは、笑いが、「静止」に対する「動く」状態に本質的に結びつくからではないか。笑いにおける動は、そのまま「移行」の観念につながる。儀礼が常に宇宙的な性格を持つこと、そして季節の変り目に集中するこ…
しかし、ディレッタント民俗学をとおして、都市の住民たちがおこなおうとしていた作業には、別の意義がある。彼らは、田舎のフォークロアに関心をいだくことによって、自分たち市民の住む都市なるものの、隠された始源を探究しようとしていたのである。市民…
漢字とは、生身の裸体のことなのだ。たとえば、漢詩を読んだり書いたりすることが夏目漱石にもたらした慰藉の意味などを考えてみてもよかろうが、日本語を母国語とする個体にとって、仮名を伴わぬ裸形の漢字には、どこかエロティックなところがある。仮名は…
すなわち、上記してきた「擬」と「欺」だけでなく、より広く谷崎的主題として認知されている「戯」や「犠」 (いけにえ) や「跽」 (=「跪」・ひざまずく) までもが、同じ字音を共有しながら、この風土にすでに親しく接しあっていること。とかく人為的な人物…
さらに考えを進めると、いったいアジアなるものが存在するのかという問題に突き当たる。たしかにアジアという地理上のことばはある。アジアとは、西は黒海にのぞむボスポラス(カラデニス)海峡から東は太平洋のあいだ、そして北はシベリアから南はジャワ島…
結局、不必要ということなんだ、それにつきるんだ、ハシは酸の臭気に目を赤く腫らして言った。僕は自分が誰からも必要とされていないのを知っている、僕はずっと必要とされなかった、だから、他人を必要としない人間になろうと思ったんだ、でもねニヴァ、僕…
あはれ詩は志(し)ならずまいて死でもなくたださつくりと真昼の柘榴
補陀洛は地ひびきすなり土用浪
かがまりてこんろに赤き火をおこす母とふたりの夢つくるため
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり
教室の窓より遁(に)げて ただ一人 かの城址に寝に行(ゆ)きしかな
手毬唄かなしきことをうつくしく
男の子なるやさしさは紛れなくかしてごらんぼくが殺してあげる
春の灯や女は持たぬのどぼとけ
書きなぐっても書きなぐっても定型詩 ゆうべ銀河に象あゆむゆめ
採る茄子の手籠にきゆァとなきにけり
今にして人に甘ゆる心あり永久に救はれがたきわれかも
死にたしと言ひたりし手が葱刻む
貧しさはきはまりつひに歳ごろの娘ことごとく売られし村あり
鳥わたるこきこきこきと罐切れば
君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ