2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

小林信彦『日本の喜劇人』

だが、大衆の反応はつねに少し遅れてくる。

フィリップ・アーサー・ラーキン「アーンデルの墓」(抄)(澤崎順之助 訳)

生きのこるものは愛だけである

安岡章太郎「軍歌」

しかしじつは、そのころから私は何とかして母の支配から脱け出したいと思いはじめていた。友人の下宿やアパートを泊り歩いて何日間も家へかえらなかったり、おしまいには口実をもうけて下町の魚屋の二階に一人で部屋を借りて住んだりした。けれども私はいつ…

ジョン・ベリマン(澤崎順之助 訳)

「ブラッドストリート夫人賛歌」(抄) ・人間はおそらくまったく孤独なものです。 わたしは、自分自身の友人になろうと努力している 悲しみと激情とに満ちた男です。 ・「お母さん、わたし死んだらどのくらい死んでいるものな の?」 ・わたしたちは一瞬も…

岡本かの子「太郎への手紙」

えらくなんかならなくてもいい、と私情では思う。しかし、やっぱりえらくなるといいと思う。えらくならしてやりたいとおもう。えらくなくてはおいしいものもたべられないし、つまらぬ奴にはいばられるし、こんな世の中、えらくならなくてもいいような世の中…

ニカノール・パラ「当人の独白」(抄)(内田吉彦 訳)

わたしがその当人です しかしだめです わたしは自分のしていることに飽きてし まったのです

山田太一『逃げていく街』

考えてみれば、観客の現実とたちまち照合され、そのリアリティを問われること、家庭劇に比べられるものはない。作者の現実観の甘さが、もっとも露呈しやすいのが家庭劇である。 それは一方で観客の現実観をもためすのであって、ある年代に歓迎された家庭劇の…

パウル・ツェラン

「上には 音もなく」(抄)(川村二郎 訳) (語れ 泉を 語れ 泉の花冠を 泉の車輪を 泉の室(むろ)を――語れ 数え語れよ 時計もまた それもまた 走りさり 動きをとめるのだ 水 なんという ことば ぼくらはきみを理解する 生よ) 「賛美歌」(抄)(川村二郎 訳…

中島梓『コミュニケーション不全症候群』

ある人が苦しむのは苦しむことができたからであり、それはとても大きな祝福でさえありうるのだ――その人が自分が苦しんだということを認めることが出来さえすれば。

ジェフリー・ヒル(富士川義之 訳)

「葬送曲」(抄) ・誰のためにわれわれは苦痛の貢物をかき集めるのか―― ほかならぬ儀式王のためではないのか? われわれは黙想 する 悲惨な神秘を。われわれは死に瀕しているのだ、 肥え太った〈慈愛(カリタス)〉を、あの 磨かれた石の顎を満足させるために…

中島敦『李陵』

常々、彼は、人間にはそれぞれその人間にふさわしい事件しか起らないのだという一種の確信のようなものを有(も)っていた。これは長い間史実を扱っている中に自然に養われた考えであった。同じ逆境にしても、慷慨の士には激しい痛烈な苦しみが、軟弱の徒には…

シルヴィア・プラース「楡の木」(抄)(金関寿夫 訳)

わたしのなかにあなたが聞くのは 海、 海のもつ不満? それとも無の声、つまりあなたの狂気?

村上春樹『羊をめぐる冒険』

「もういろんなことは終っちゃったんでしょ? それともまだ終ってないの?」

ギョールゴス・セフェリス「アフリカゆりに埋れた船乗りストラティス」(抄)(高松雄一 訳)

つらい、もの憂いことだが、生きている者たちだけに頼る ことはできない 彼らは言葉をもっていないし、それに 僕は死者たちにたずねなければ 先に進むことはできないのだ

『論語』(金谷治 訳注)

子の曰(のたま)わく、人の己れを知らざることを患(うれ)えず、人を知らざることを患う。 子曰、不患人之不己知、患己不知人也、 *人を知らざることを患う――ここの「己」の字は採らない。 先生がいわれた、「人が自分を知ってくれないことを気にかけないで、…

エリク・リンドグレン「八月」(抄)(中川敏 訳)

なぜなら すべてのものはささやきのように通りすぎてい くから 成長することはない……決して 眠っている生を 眠っている死を 呼び醒すことは ない 何になろう 生の あるいは死の あのような言葉で 生命の蠟燭(あかり)に 息をふきかけたところで?

フラナリー・オコナー「高く昇って一点へ」(須山静夫 訳)

「世界が終りになったというふうな素振りをしなくてもいいんです」と彼は言った。「なぜなら、まだ終っていないからです。これからは新しい世界に住んで、気分転換のためにいくつか新しい現実に直面するんです。元気を出してくださいよ」と彼は言った。「殺…

ラールス・グスタフソン(飯吉光夫 訳)

「ロシアからの物語」(抄) 《若サノ故ニ踏ミニジラレシカズカズノ散文ノ間ニ》 しかし散文一つ一つのまわりはひっそりかんとした静けさ 歴史を厳密に吟味せよ――起こらずともすんだこと 歴史――領主たち 反乱 さまざまな語りつたえ 暗闇 ひどく寒い さえわた…

ジャン・ジュネ『泥棒日記』(朝吹三吉 訳)

すべては、わたしの死にいたるまで、でありつつあるの氷塊の中に凝結しているのだ……。 ※太字は出典では傍点