2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『孟子』

人必ず自ら侮りて、然る後に人之を侮る。 人は自分で自分を軽んじるようなことをするからこそ、他人がその人を侮辱するのである。

カート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』(浅倉久志 訳)

群集はなにも見えないことを知りながらも、現場の近くにいることに、のっぺりした塀を見つめて中の出来事を想像することに、めいめいが楽しみを見出しているのだった。実体化の神秘は、絞首刑の神秘とおなじように、塀によって強められていた。病的な空想と…

バルザック『ゴリオ爺さん』(平岡篤頼 訳)

要するにここには、詩情のない貧困が支配している。つつましい、凝縮した、すりきれた貧困。まだ泥にまみれてはいないが、しみだらけなのだ。穴もあいていないし、ぼろになってもいないが、いまにも腐り落ちようとしているのだ。

魯迅『我們現在怎様做父親』(『墳』所収)

現在の子供は、将来の父親であり、また将来の祖父でもある。我々や読者は、現役の父親でないとすれば、必ず父親の候補者であり、さらに誰でもみな祖先となる希望を持っていて、その差は時間だけであることを、私は知っている。

魯迅『狂人日記』(『吶喊』所収)

人を食ったことのない子供は、まだいるかもしれない。子供を救え……。

フォークナー『アブサロム、アブサロム!』(高橋正雄 訳)

クェンティンはそうした遺産とともに成長したのであり、名前はいろいろ取り替えられたし、ほとんど無数にあった。彼の幼少時代はそれらの名前で満たされており、彼の体は敗者たちのよく響く名前のこだまするうつろな大広間であり、彼は一個の存在では、一個…

フォークナー『響きと怒り』(高橋正雄 訳)

「さあ、みんな静かにするだよ」とディルシーがいった。「今夜は静かにしなきゃあなんねえだよ」 「どうして今夜は静かにしなきゃあなんないの」とキャディが小声でいった。 「そんなこと気にしなくってもいいだよ」とディルシーがいった。「神様のおぼしめ…

杜甫

信(まこと)に知る 男を生むは悪しく、反(かえ)って是れ 女を生むは好しと。 今こそよくわかった、男を生むのは悪く、かえって女を生むほうが良いということを。徴兵され、野辺に戦死する男を生み育てるよりも、近所に嫁にやることのできる女を生む方が良いの…

魯迅『小雑感』(『而已集』所収)

女の天性には母性と少女性があるが、妻性はない。妻性は無理につくられたもので、母性と少女性の混合でしかない。

フォークナー『死の床に横たわりて』(佐伯彰一 訳)

いつでも動きづめでいるようなものは、道や馬や馬車みたいに神様は何でも横に長く作っておかれるのじゃが、じっとしておるようにっていうものは、木や人間みたいに上下に立つようにされる。

フォークナー『八月の光』(加島祥造 訳)

するとハイタワーが言った。「では、なぜ君は他の者たちが下町で楽しんでいる土曜の午後も工場で働いているんだね?」 「分りません」とバイロンは言った。「それがまあ、僕の生き方なんでしょうね」 「そしてこれがわしの生き方なのさ」と相手は言った。『…

〔俗諺〕

女が育つは十八度(たび)変わる。 女は成人になるまで十八回も変わる。そして、変われば変わるほど美しくなる。年ごろの娘の成長の早さ、とくに容貌の変化について言う時に用いられる言葉。

巴金『寒夜』

だが人間一生酔い続けることはできない。きっと醒める時がある。

トーマス・マン『トニオ・クレエゲル』(実吉捷郎 訳)

「春というやつは、どうしたって一番やりきれない季節だ。君は辻褄の合ったことが考えられるか、クレエゲル君、おちついて、ちょっとでも山や効果を作り出すことができるかね――血がいかがわしくむずむずして、いろんな度外れな感興が、気をわくわくさせる時…

フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』(野崎孝 訳)

「なんてきれいなワイシャツなんだろう」しゃくりあげる彼女の声が、ワイシャツの山の中からこもって聞えた「なんだか悲しくなっちまう、こんなに――こんなにきれいなワイシャツって、見たことないんだもの」

李白

百年三万六千日、一日(いちじつ)須く傾くべし三百杯。 人の一生は、どれほど長く生きたとしても、せいぜい百年、三万六千日でしかない。ならば、日々必ず傾けたい、三百杯の酒。

『資治通鑑』

物の暴(にわ)かに長ずる者は必ず夭折し、功の卒(にわ)かに成る者は必ず亟壊(きょくかい)す。 だしぬけに成長したものは必ず早いうちにだめになり、急に成績をあげたものは必ず早いうちに失敗する。

ヘンリー・ミラー『北回帰線』(大久保康雄 訳)

いまぼくを猛烈に熱中させているものが、たった一つある。それは世間の書物では省かれているすべてのものを記録することだ。なんぴとも、ぼくの理解しうるかぎりでは、われわれの生に方向と動機づけとをあたえている空気中のそれらの諸元素を利用してはいな…

フィッツジェラルド「金持の御曹子」(野崎孝 訳)

ある特定の個人を書こうと思って書き始めると、いつの間にか、一つのタイプを創り出していることに気がつくが、反対にあるタイプの人間像を描き出そうとすると、できあがったものは、無というか空というか、何一つ創り出されていないことに気がつく。 それは…

〔俗諺〕

この村を過ぎたら、この宿は無い。 この村を過ぎたら、過ぎた村にあった宿と同じ宿はつぎの村では見つけることができない。機会や時機は一度のがしたら、もう二度と来ないというたとえ。

〔俗諺〕

河があるのに、船を洗わぬ。 目の前に、川が流れているのだから、舟を洗うつもりなら、いくらでも水があるのに、洗おうとしない。よい条件や環境に恵まれていても、それを利用しようともしないというたとえ。

ディケンズ『大いなる遺産』(山西英一 訳)

ミセス・ハッブルは首をふって、この子はろくなものにはならんだろうという、悲しむべき予感をもって、わたしをじっと見つめながらたずねた。「若い者というと、なぜちっともありがたいっていう気持ちがおこらないんでしょうねえ?」この道徳的な謎は、一同…

トーマス・マン『魔の山』(関泰祐、望月市恵 訳)

なぜなら、文学とはつまりは人文主義と政治との結合にほかならず、そして、この結合は、人文主義がすでに政治であり、政治は人文主義であるから、いっそう自然に実現するのである。

鄒韜奮『不相干的帽子』

挫折や苦難は意志を鍛え、能力を増すよい機会だと私は考える。その点で私は、あの手この手を使って私を陥れようとする者に限りない謝意を表したいと思う。

魯迅『小雑感』(『而已集』所収)

昔羽振りのよかった者は復古を願い、今羽振りのよい者は現状維持を願い、まだ羽振りのよくない者は革新を願う。

ドストエフスキー『未成年』(米川正夫 訳)

「人間にもずいぶんいろいろな変わったのがあるからね。ある人は容易に感情を変更するけれど、またある人はそうするのに非常な困難を感じるものだよ」

ロレンス・スターン『トリストラム・シャンディ』(朱牟田夏雄 訳)

――この地球という星は、悪意でなく良心にかけて申しますが、ほかの星のかすやきれっぱしで出来ているのだと私は考える。――もちろんこの地球にしたところで、そこに生まれた者が、生まれながらに立派な爵位とかたいへんな財産とかを持っているのなら、あるい…

郭小川『秋日談心』

だがいつ昔を振り返っても、人生にやましさを感じたくはないものだ。

郭小川『秋日談心』

人生はこの濃厚な酒と同じだ。何度も精製しなければ、このようにうまくならない。

ガルシア=マルケス「失われた時の海」(木村榮一 訳)

「この海から遠く離れたところで死にたい、ずっとそう思いつづけてきたんです。ここでバラの香りがするなんて、きっと神様のお告げにちがいありませんわ。もし死ぬのなら、なにか前兆がありますようにとお祈りしてきたんですもの」 少し考えたいから、時間を…