2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧
林檎投ぐ男の中の少年に
廬を結ぶ 古城の下。 時に古城の上に登る。 古城 疇昔に非ず。 今人 自ら來往す。 ろをむすぶ こじゃうのもと。 ときにこじゃうのうへにのぼる。 こじゃう ちうせきにあらず。 こんじん おのづかららいわうす。 結廬古城下 時登古城上 古城非疇昔 今人自來往…
あはれあはれここは肥前の長崎か唐寺の甍にふる寒き雨(あはれあはれここはひぜんのながさきかからでらのいらかにふるさむきあめ)
牀前 月光を看る。 疑ふらくは是れ地上の霜ならんかと。 頭を擧げて山月を望み、 頭を低れて故郷を思ふ。 しゃうぜん げっくゎうをみる。 うたがふらくはこれちじゃうのしもならんかと。 かうべをあげてさんげつをのぞみ、 かうべをたれてこきゃうをおもふ。…
たんぽゝと小声で言ひてみて一人
昔人 已に黄鶴に乘じて去る。 此の地 空しく餘す 黄鶴樓。 黄鶴一たび去って 復 返らず、 白雲千載 空しく悠悠。 晴川歴歴たり漢陽の樹。 芳草萋萋たり鸚鵡洲。 日暮 郷關 何れの處か是なる。 煙波 江上 人をして愁へしむ。 せきじん すでにくゎうかくにじょ…
失ひしわれの乳房に似し丘あり冬は枯れたる花が飾らむ
積水 極む可からず。 安んぞ滄海の東を知らんや。 九州 何れの處か遠き、 萬里 空に乘ずるが若し。 國に向って惟だ日を看、 歸帆は但だ風に信す。 鰲身 天に映じて黒く、 魚眼 波を射て紅なり。 郷樹 扶桑の外、 主人 孤島の中。 別離 方に異域。 音信 若爲…
せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ
君を憶うて涙は落つ東流の水。 歳歳 花開くは知んぬ誰が爲ぞ。 きみをおもうてなみだはおつとうりうのみづ。 さいさい はなひらくはしんぬたがためぞ。 憶君涙落東流水 歳歳花開知爲誰 ありし日の君のことを思い出して、涙が川水の上にこぼれ落ちる。東へ流…
あぶないものばかり持ちたがる子の手から次次にものをとり上げてふつと寂し
馬より下りて君に酒を飮ましむ。 君に問ふ、何の之く所ぞ。 君は言ふ、意を得ず、 南山の陲に歸臥せん、と。 但 去れ、復問ふこと莫けん。 白雲盡くる時なし。 うまよりおりてきみにさけをのましむ。 きみにとふ、なんのゆくところぞ。 きみはいふ、いをえず…
瀧の上に水現れて落ちにけり
予は生る 千載の後 尚友 千載の前 われはうまる せんざいののち しゃういう せんざいのまへ 予生千載後 尚友千載前 わたしが生まれたのは、千年も後(あと)のことであるが、尊敬すべき友として慕うのは千年も前に生きていた人なのである。
地ビールの泡(バブル)やさしき秋の夜ひゃくねんたったらだあれもいない
春江の潮水 海に連なって平かなり。 海上の明月 潮と共に生ず。 灔灔として波に隨ふ千萬里。 何れの處か春江月明無からん。 江流宛轉として芳甸を遶り、 月は花林を照らして皆 霰に似たり。 空裏の流霜は飛ぶを覺えず、 汀上の白沙は看れども見えず。 江天一…
墓のうらに廻る
夜闌にして 浩歌起り 玉帳 悲風生ず 江東 千里可り 妾を棄つ 蓬蒿の中 石と化さば 那ぞ語を解せん 草と作る 猶ほ 舞ふ可し 陌上 騅の來るを 望むも 翻って愁ふ 相顧みざらんことを よるたけなはにして かうかおこり ぎょくちゃう ひふうしゃうず かうとう せ…
あなたは勝つものとおもつてゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ
飄飄として何の似たる所ぞ。 天地の一沙鷗。 へうへうとしてなんのにたるところぞ。 てんちのいっさおう。 飄飄何所似 天地一沙鷗 ところ定めず、ふらふらとさすらいゆくわが境遇を何にたとえようぞ。まったく、天地の間をあまかけって、今、砂濱(すなはま)…
谺して山ほととぎすほしいまゝ(こだましてやまほととぎすほしいまま)
暁蝉嗚咽し 暮鶯愁ふ。 言語 殷勤 十指頭。 梵書を閲むを罷めて 聊か一弄すれば、 散じて 金磬に隨って 清秋に泥む。 げうぜんをえつし ぼあううれふ。 げんご いんぎん じっしとう。 ぼんしょをよむをやめて いささかいちろうすれば、 さんじて きんけいに…
滝、三日月、吊り橋、女体 うばたまの闇にしづかに身をそらすもの
詩人 月を愛し 中秋を愛するか 人有って儂に問へば 儂 頭を掉る 一年の月色 只だ 臘裏 雪汁 揩磨し 霜水 洗ふ 八荒萬里 一青の天 碧潭 浮出す 白玉の盤 更に 梅花に約して 渠が伴と作らしむ 中秋は 是くのごとくならず 此の段を欠く しじん つきをあいし ち…
あゝといひて吾を生みしか大寒に
今年の花は去年に似て好し。 去年の人は今年に到りて老ゆ。 始めて知る、人老いて花に如かざるを。 惜しむ可し落花 君掃ふこと莫れ。 こんねんのはなはきょねんににてよし。 きょねんのひとはこんねんにいたりておゆ。 はじめてしる、ひとおいてはなにしかざ…
おお! かなかな 非在の歌よ、草むらに沈める斧も昨夜(きぞ)の反響
男兒憐む可きの蟲、 門を出づれば死の憂を懷く。 尸は狹谷の中に喪ひて、 白骨人の收むる無し。 だんじあはれむべきのちゅう、 もんをいづればしのうれへをいだく。 しかばねはけふこくのうちにうしなひて、 はくこつひとのをさむるなし。 男兒可憐蟲 出門懷…
戦争が廊下の奥に立つてゐた
水國の蒹葭 夜 霜あり、 月寒 山色 共に蒼蒼。 誰か言ふ 千里 今夕よりすと。 離夢は杳として 關塞の如く長からん。 すゐこくのけんか よる しもあり、 げっかん さんしょく ともにさうさう。 たれかいふ せんり こんせきよりすと。 りむはえうとして くゎん…