2012-01-01から1年間の記事一覧

ソロー『森の生活』(「孤独」)(飯田実 訳)

孤独ほどつきあいやすい友達には出会ったためしがない。われわれは自分の部屋にひき籠っているときよりも、そとでひとに立ちまじっているときのほうが、たいていはずっと孤独である。考えごとをしたり仕事をしたりするとき、ひとはどこにいようといつでもひ…

ル・コルビュジエ『コルビュジエ 伽藍が白かったとき』(生田勉・樋口清 訳)

色彩とは? それは身体の中にたくましくめぐる血である。色彩とは、生命のしるしである。庭や畠にある花には「古色」はない。空は天気のよいときには青い。耕しおこされた土、立った岩、露わな地層などのくすんだ協和音は、冬のあとの春ごとに生まれかわる生…

サイード『パレスチナとは何か』(島弘之 訳)

私たちは、完全に体系的なヴィジョンを有する輪郭のはっきりとした一団の追放者たちであるには、あまりにも急拵えで過去の経験も様々なばかりか、単に憐憫を誘う難民の群れであるためには、あまりにも多弁で悶着を引き起こしすぎもする。私よりも年長のある…

ショーペンハウアー「著作と文体」(斎藤忍随 訳)

人間の力で考えられることは、いついかなる時でも、明瞭平明な言葉、曖昧さをおよそ断ち切った言葉で表現される。難解不明、もつれて曖昧な文体で文章を組み立てる連中は、自分が何を主張しようとしているかをまったく知らないと言ってよく、せいぜいある思…

ハマーショルド『道しるべ』(鵜飼信成 訳)

私が求めているのは不条理なこと――生に意味があってほしい、ということ。私の闘っているのは不可能なこと――私の生を意味あるものにしようとすること。

ルース・ベネディクト『定訳 菊と刀』(長谷川松治 訳)

刀も菊も共に一つの絵の部分である。日本人は最高度に、喧嘩好きであると共におとなしく、軍国主義的であると共に耽美的であり、不遜であると共に礼儀正しく、頑固であると共に順応性に富み、従順であると共にうるさくこづき回されることを憤り、忠実である…

ラ・ロシュフコー『ラ・ロシュフコー箴言集』(二宮フサ 訳)

われわれは皆、他人の不幸には充分耐えられるだけの強さを持っている。 *われわれの美徳は、ほとんどの場合、偽装した悪徳に過ぎない。 *人は決して今思っているほど不幸でもなく、かつて願っていたほど幸福でもない。 *われわれは、自分と同じ意見の人以…

モンテーニュ『エセー』(原二郎 訳)

若者は自分の気力を呼び覚ますために、そしてそれを黴びさせ、臆病にさせないために、自分の規則をゆすぶらなければならない。規則と規律ずくめで引き廻される生活ほどばかげた、弱いものはない。 私の言うことを真に受けるなら、ときどきは極端に走るがよい…

ジョン・ロック『人間知性論』(大槻春彦 訳)

航海する者が自分のもつなわの長さを知ることは、それで大洋の深さをすべて測れなくとも、たいへん役に立つ。航海を導いて、難破の恐れのある浅瀬に乗り上げないよう用心させる必要のある場所で、じゅうぶん底へとどく長さがあると知っていれば、よいのであ…

トロツキー『トロツキー わが生涯』(森田成也 訳)

私は、歴史の潮の満ち干(ひ)がどのようなものであるかを実体験から十二分に知っている。それは、それ自身の法則に従っている。いらいらするだけでは、この満ち干の交替を早めることはできない。私は歴史の展望というものを個人的な運命の見地から見ないこと…

ゴーギャン『ノア・ノア タヒチ紀行』(前川堅市 訳)

タヒチでは、太陽の光線が、男女両性へ同じように光を投げかけるように、森や海の空気が、皆の肺臓を強健にし、肩や腰を大きくし、ひいては海浜の砂までも大きくするのである。女は、男と同じ仕事をやる。男は女に対して無頓着である。――だから、女には、男…

アドルノ『プリズメン』(木田元 訳)

文化批判は、文化と野蛮の弁証法の最終幕に直面している。アウシュヴィッツのあとでは詩を書くことは野蛮である。しかもこのことが、なぜ今日では詩を書くことが不可能になってしまったのかを教える認識をさえ蝕んでいるのだ。精神の進歩をもおのれの一要素…

ジンメル『日々の断想』(清水幾太郎 訳)

自分自身に適せず、踏み迷って、休むことを知らない存在、それが人間である。理性的存在としては余りに多くの自然を有し、自然的存在としては余りに多くの理性を有している――どうすればよいのか。

トクヴィル『アメリカにおけるデモクラシー』(岩永健吉郎・松本礼二 訳)

すべての人間の類似が進めば進むほど、誰もが全体に対して自己をますます無力と感ずる。自分が他のすべての人よりはるかに優れ、彼らから区別される点は何も見当たらないので、彼ら全体と対立するとすぐ自分の方を疑う。自分の実力を疑問視するにとどまらず…

マクルーハン『人間拡張の原理 メディアの理解』(後藤和彦・高儀進 訳)

〝メッセージ〟が〝メッセンジャー〟より早くとどくようになったのは、電信の登場以来のことである。それ以前には、〝道路〟と〝書かれたことば〟とは、相互に密接に関係していた。電信の登場とともにインフォメーションは、石やパピルス(紙)などの固体から…

ベンヤミン「歴史の概念について」(浅井健二郎 訳)

「新しい天使(アンゲルス・ノーヴス)」と題されたクレーの絵がある。それにはひとりの天使が描かれていて、この天使はじっと見詰めている何かから、いままさに遠ざかろうとしているかに見える。その眼は大きく見開かれ、口はあき、そして翼は拡げられている…

J・ボズウェル『サミュエル・ジョンソン伝』(中野好之 訳)

怠惰は克服されねばならぬ病気だ。しかし僕は特定の学習計画の厳格な実行を勧めようとは思わない。僕自身これまで二日間と続けて、決った計画通りに実行したことがない。人間は気持が赴くままに読書すべきものだ。課題として読む本は余りその当人のためにな…

ハイゼンベルク『部分と全体』(山崎和夫 訳)

一度でもって、おそらく十万人の市民を殺害し得るような原子爆弾は、他の武器と同じに考えてよいだろうか? われわれは、古くからあるがしかし問題のある原則(ルール)、すなわち〝悪のための戦いに許されない手段も、善のためにはすべて許される〟という原則…

エドマンド・バーク『現代の不満の原因』(中野好之 訳)

実際我々が直面する状況、つまり巨大な収入、途方もない負債、強大な陸海軍、政府それ自身が一大銀行家にして一大商人であるというような現在の事態においては、もしも或る種の極悪な悪名高い行動や致命的な改革によってこれら民衆の代表が法律の柵を越え出…

マリー・キュリー『ピエル・キュリー伝』(渡辺慧 訳)

発見は前もって積み重ねられた苦しい努力の結実であります。みのりの多い多忙の日々の間に、なにをやってもうまくいかない不安な日々がはいりこんできます。そういう日には研究対象そのものが敵対心をいだいているかとさえ思われてきます。こういうときこそ…

ジャン=ジャック・ルソー『孤独な散歩者の夢想』(今野一雄 訳)

こうしてわたしは地上でたったひとりになってしまった。もう兄弟も、隣人も、友人もいない。自分自身のほかにはともに語る相手もない。だれよりも人と親しみやすい、人なつこい人間でありながら、万人一致の申合せで人間仲間から追い出されてしまったのだ。…

ライプニッツ『理性に基づく自然及び恩恵の原理』(河野与一 訳)

世界の充実性の為にすべてのものは聯結(れんけつ)していて、各物体は距離に応じて多かれ少かれ他の各物体に作用を及ぼし又反作用によって他の物体から状態の変化を蒙るのであるから、おのおのの単子は自分自分の視点に従って宇宙を表現し宇宙そのものと同じ…

ギボン『ギボン自伝』(中野好之 訳)

私が庭園の東屋で最後のページの最後の数行を書いたのは、一七八七年六月二十七日の日というよりも夜の十一時と十二時の間であった。私は筆を擱いた後で、田園、湖水、山脈の景観を見渡すアカシア並木の散歩道を何回か歩き廻った。空気は温暖で天空は澄み渡…

タキトゥス『年代記』(国原吉之助 訳)

二人は同時に、小刀で腕の血管を切り開いて、血を流した。セネカは相当年をとっていたし、節食のため痩せてもいたので、血の出方が悪かった。そこでさらに足首と膝の血管も切る。激しい苦痛に、精魂もしだいにつきはてる。セネカは自分がもだえ苦しむので、…

フロイト『夢判断』(高橋義孝 訳)

夢はひとに未来を示すという古い信仰にもまたなるほど一面の真理は含まれていよう。とにかく夢は願望を満たされたものとしてわれわれに示すことによって、ある意味ではわれわれを未来の中へと導いて行く。しかし夢を見ている人間が現在だと思っている未来は…

マキアヴェッリ『君主論』(河島英昭 訳)

人民は優しく手なずけるか、さもなければ抹殺してしまうかだ。なぜならば、軽く傷つければ復讐してくるが、重ければそれができないから。したがって、そういう誰かを傷つけるときには、思いきって復讐の恐れがないようにしなければならない。

サルトル『実存主義とは何か』(伊吹武彦 訳)

人間は自由である。人間は自由そのものである。もし……神が存在しないとすれば、われわれは自分の行いを正当化する価値や命令を眼前に見出すことはできない。……われわれは逃げ口上もなく孤独である。そのことを私は、人間は自由の刑に処せられていると表現し…

『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』(「画家の生活と勉強」)(杉浦明平 訳)

画家は孤独でなくてはならぬ――画家は孤独で、自分の眺めるものをすべて熟考し、自己と語ることによって、どんなものを眺めようともそのもっとも卓(すぐ)れた個所を選択し、鏡に似たものとならねばならぬ。鏡は自分の前におかれたものと同じ色彩に変るものだ…

パスカル『パンセ』(由木康 訳)

人間は自然の中にあって何者であるか? 無限に比すれば虚無、虚無に比すれば一切、無と一切との中間物。両極を理解するには、それらから無限に隔っているので、事物の窮極とその始原とは、彼にとって、底知れぬ秘密のうちに詮方(せんかた)もなく隠されている…

マルク・ブロック『封建社会』(堀米庸三 監訳)

封建時代のヨーロッパにおける乳児の死亡率がはなはだ高かったことは、まずまちがいのないところだが、このことは、ほとんど常態であった喪に対して人の感情をにぶらせずにはおかなかった。大人のほうはどうかといえば、戦禍による不慮の死を別にしても、そ…